ことばの途上
- Ken
- 3月25日
- 読了時間: 2分

いい本に出会った。そんな幸運というのは、
大抵、本の神様の気まぐれなのか...
その本自体を探していなかった時に巡ってくる。
最初は他の目的があって行動していて
その途中で自分の好奇心に触れる
場所やものが見つかって
偶然その本に辿り着いたという感じだ。
この「ことばの途上」もそんな風に
ある建築家のことを調べていたら
その建築家の書いた本を置いている本屋を見つけて
店主の選書の中で気になった本だった。
最初この本のカバーに目が留まった。
薄紙で二重になっていて、真ん中に細く隙間があり
裏返すと黒い背景に、本文なのか原稿なのか
小さな字で書かれた文字がびっしりと
隙間なく書かれている。
著者の岩瀬崇さんは、
岐阜県郡上市の最奥の集落、石徹白(いとしろ)で 「あわ居」という施設を主宰している。
石徹白にある築90年を超える古民家を 縁あって譲り受けた岩瀬さんは
大垣市の家との二拠点生活を始める。
時に友人や大工さんの力も借りながら
3年かけて自主改修をして「あわ居」を開いた。
この「ことばの途上」には、その後
石徹白に完全に移住して今に至るまでの約5年間に
岩瀬さんが体験してきたこと、感じたことが
エッセイや詩になったり、時には引用文の形で
時系列に並べられている。
岩瀬さんの言葉を引いてみる。
「ことばというのは、 新たな世界との出会いにおいて、都度生まれる。 出会いのよろこびが、記述へとつながるのであって
自閉化した生活において、文字記号を配列し、
構築してもまったく仕方がない。
ことばが書けるか否かは「世界」に参加 していることに徹底して依拠する。」
※参照 / 言葉の出自
先に記した、この本のカバーの裏側を
隙間なく埋め尽くす言葉は
石徹白という新たな「世界」に出会って
岩瀬さんに日々湧き上がってきた まさに「ことばの途上」なのではないかと思う。
岩瀬さんがそこから一語一語 丁寧に選びながら、綴った一編一編を辿ると
岩瀬さんの身体に直に触れている感覚がある。
その接触で感じる温度は、今度は読者の内から
何か新たなことばが生まれる種火
にもなっているような気がした。